ウートピに反人身取引運動の問題と代表的な活動家ソマリー・マムについての記事が掲載されました(6/10追記あり)

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2022年11月20日

先日、ソマリー・マムさんが自身の財団を去ったというニュースが出ました。

ソマリー・マムさんといえば、二年前、国際基督教大学で開催されたワークショップにゲストスピーカーとして参加していました。私はこの少し前から anti-trafficking movement (反人身取引運動)の危険性について考えたり読んだりし始めていたので、ブログで他の人にも呼びかけて、ワークショップに参加しました。

その時の感想は Twitter と Facebook に書きました。感想というか怒りの表出だけなのでお恥ずかしいのですが、英語を読まれる方はよかったら Facebook にまとめたものをご覧ください。

日本語ではあまりマムさんの問題や反人身取引運動の問題を語っている人が多くないので(英語圏でもほとんどが賞賛の表明ばかりでしたが)、今回のマムさんの辞職騒動を受けて、何か書いた方がいいのかなと思っていたところ、なんとウートピから記事執筆依頼を頂きました! その時の私の反応は、

ウートピすげえなww ソマリーマムについての記事執筆依頼が来たよwww 異色メディアすぎるwww

というものでしたw (Facebook より)

早速取りかかってみたものの、1,500字程度という依頼なのに、第一稿は驚きの4,002字。削れないんですーToT と泣きついたら「前後編に分けましょう」という素晴らしいご提案を頂き、ほとんど文章をいじらず掲載して頂けました。

というわけで、『セレブな人権活動家ソマリー・マムの辞職騒動』前後編が無事ウートピに掲載されました。

タイトルと見出しは大幅に変更されているので、ちょっと自分でも恥ずかしいくらいゴシップ風なのですが、さっきも書いた通り内容はほぼ私の出した原稿の通りです。

脚注がひとつを残して削除されているので、情報のソースを知りたいという人は、以下のリストをご参照下さい。

追記 2014年6月10日

(この部分、文法エラーが多かったので、更に約19時10分に修正しました)

以前ソマリー・マムさんについて前のブログで書いたとき、「従軍慰安婦は元々売春婦だったから日本は何も悪くない」というネトウヨの論理と何が違うのか、という反応をツイッターで頂きました。当時もブログ上で応答しましたが、それを加筆修正してここでも説明しておきます。

そもそも「慰安婦であったような女性がすべからく完全に自主性を持たずに強制されて慰安婦になった」ということが、あたかも「日本は悪かった」ことの条件であるかのように振る舞う方が、ネトウヨの論理に近いのではないでしょうか。慰安婦の中には、例えば、日本が朝鮮半島の地元経済を壊滅的に痛めつけていなかったら慰安婦にならなかったであろうひとも、たくさんいるでしょう。経済的な必要性から「慰安婦になるしかない」ような状況に、日本によって追いやられた人々が多数いたのです。

前の記事から以下抜粋します。(脚注番号は省略)

反トラフィッキングの活動家や団体は、「プッシュ」要因への対処に時間と金をかけず、「プル」要因を撲滅するためにばかり時間と金をかけています。ぽん引き、ギャング、トラフィッカー、客などは女性を性産業に引き(=プル)入れるので、「プル」要因です。しかしかれらが「プル」するのは、既に何らかの形で「プッシュ」されてきたひとたちです。「プッシュ」要因は、例えば家庭や街、そして刑務所等での暴力だったり、人種・性・階級などの差別だったり、外国人を標的とした法律だったりします。「プッシュ」要因に注目しないことで、反トラフィッキング運動は、社会構造の問題(経済・文化など)を解消することで性産業以外の選択肢を広げようとするのではなく、むしろそういったことには目をつむり、トラフィッカーなどによる「犯罪」の問題に矮小化してしまうのです。

このプッシュ要因とプル要因という枠組みで考えれば、従軍慰安婦にとって、各地域の経済や生活を破綻させるような植民地政策を実施した大日本帝国はプッシュ要因であり、同時に、詐欺や拉致などの方法で従軍慰安婦として彼女らを集めたプル要因でもあったということが分かります。そして、その両方の意味において、「日本は悪かった」のです。

私の主張は、「プル要因だけを撲滅しようとしても、実際に性産業に従事しているひとには痛手にしかならない」というものです。それは、「プル」要因であるような(つまり、社会構造的に「プッシュ」されてしまったひとを引き入れるような)トラフィッカー、ぽん引き、売春宿所有者、ギャング、客などの存在を擁護するために言っているのではなく、セックスワーカーの権利と尊厳と生活が守られなければいけないから言っているのです。プル要因だけでなく、プッシュ要因も同時に減らさなければならない、そして望むと望まざるとにかかわらず、就労環境が改善されなければいけない、と思っているのです。

プル要因だけに注目するというのは、慰安婦問題についてのネトウヨの論理です。「強烈な強制連行があったなら日本は悪いが、そうでないなら全く責任を問われるいわれはない」という主張だからです。一方で、反人身取引運動もまたプル要因だけに注目しています。どちらも、日常生活の延長にある経済や文化、社会構造などには一切の批判を向けず、(むしろそれらを擁護するのに都合のいい)「とんでもない悪者が悪いことをしているのだ」という考えを根底に持っています。両者の違いは、ネトウヨが「日本はとんでもない悪者ではなかった」という主張に行き着き、反人身取引運動は「とんでもない悪者から少女たちを救おう」という主張に行き着いた、ということくらいでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。