LAタイムズの小児性愛についての記事を翻訳しました

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2022年11月20日

補足 2021.10.29

この記事に関して、多くの誤解とデマが出回っています。補足を書きましたので、何か批判したいことがある人は以下の補足を読んでからお願いします。

ペドフィリアに関する私の立場の誤解とデマについて

補足を読まずに以下の本文だけを読んで批判することはやめてください。

補足前の本文↓

小児性愛(ペドフィリア)については様々な立場があると思います。それぞれの経験や知識から、極端ではないにせよ、何らかの強い思いがある人もたくさんいると思います。しかし一方で、小児性愛についての「LGBT」系の立場の言説が非常に少ないということに、私は不安を感じています。「LGBT」系の政治は、小児性愛を含め、その他の「性的嗜好」(と現在呼ばれるもの)から「性的指向」を区別し、後者に関する社会的言説を改善するために進められて来たという側面があります(Tもまた、内部で差別されているのですが)。いいかえると、性的「指向」は、社会的地位などの向上を認めるべき性的欲望のかたちのことを指す名前として機能しており、「嗜好」に区別される欲望は個人的な領域に押し込められてきました。

「LGBT」のことに限らず、「クィア」のこと、「LGBTQ」のこと、「セクシュアル・マイノリティ」のことなどについて語られるときも、小児性愛について忘却されていたり、むしろ意識的に排除されているケースが多いと感じています。しかし性的欲望に関する社会的序列は、「成人した、障害のない、極端な体型ではない、人種ごとに理想化された美の基準に近い、ある程度清潔な、性別がシンプルにわかりやすいタイプの、異性」に対する欲望を中心としています。

私は「クィア」という言葉を必ずしも「LGBT」などの「性的指向と性自認の組み合わせ」に限定した言葉だとは思っていません。「クィア」は、性的な欲望やアイデンティティについて社会にどのような言説が存在するのか(過去・現在・未来にわたって)について包括的に考えるような態度だと思いますし、そこから意図的に排除すべき性的現象・欲望・行為・意志・言説などはないと思っています。当然、小児性愛もまた、クィアという言葉の射程内に入っているはずです。

また一方で、フェミニストやクィア系の活動や言論に対し、「でもロリコンは差別するんだろう」という対抗言説が出されることが頻繁にありますが、フェミニズムもクィア運動も多様ですし、私のこれまで出会って来たフェミニストやクィア系活動家に「ロリコン」を「ロリコンだから」という理由で差別すべきだと考えているような人は、いません。フェミニスト同士、クィア系活動家同士、また理論家同士などでも、「性的指向」と「性的嗜好」を区別して後者を個人的な領域に押し込めることへの批判は出されています。そういったことを理解してもらう必要性も、高まっているように思えます。

ちょうど関連記事を見つけたので、1年前のものですが、翻訳しました。全面的に記事の内容に賛同するわけではありません(特に「生まれつきだから指向だ!」という主張は嫌いで、「生まれつきかどうかは関係ない、差別するな」という方向を私は採用しています)。ですが、考えるきっかけになる材料がいくつもあると思うので、ここに掲載します。

オリジナル記事(英語)
http://articles.latimes.com/……

『小児性愛(ペドフィリア)について多くの研究者がこれまでとは違う見解を持つようになっている』
——小児性愛はかつて、人生の早い段階での心理的な影響に端を発するものと思われていた。現在、多くの専門家は小児性愛を、変わることのない根深い性質であると考えている。——

2013年1月14日 アラン・ザレンボ(ロサンゼルス・タイムズ)

ポール・クリスティアーノは少年のとき、女の子に大変興味を持っていた。体育の授業での彼女らの踊りや、ひょろひょろとした弱々しい体が転ぶのを楽しんで見ていた。

思春期を迎え、他の男子たちが同級生に関心を持ち始めても、7歳から11歳の子に関心がある自分に戸惑っていた。

大人になっても、ポールの欲望は時間が止まっているかのように、変わらなかった。シカゴ郊外で安定した家庭生活を送ってはいたが、自分を刑務所に送ってしまうかもしれない欲望にひどく悩まされていた。

「こういう気持ちがあることで、私はモンスターになることを運命付けられていたんだ。非常に怖かった」とポールは語る。

1999年にポールは、児童ポルノを購入しているところで逮捕された。現在は36歳。彼はこれまで一度も子どもに性的な行為をしたことはないと言う。しかし州が命じた5年に及ぶセラピーの結果もむなしく、子どもへの性的関心は消えていない。

「あの人たちは、簡単にこの欲望を消せると思っている。私が恥を感じ、そんな欲望の存在を私が否定するようにしむけることができると思っている。でもこの欲望は、その辺にいる人の異性愛と同じくらい本質的な(訳者注:その者に固有のものであり、変更不可能であることが含意されている)ものなんだ」とポールは語る。

研究者らもまた、実験の結果同じ結論に至り始めている。

性的逸脱の多くがそうであるように、小児性愛はかつて、人生の早い段階での心理的影響に端を発するものであると思われて来た。しかし現在は、多くの専門家がそれを、異性愛や同性愛と同様に変更不可能な性的指向であると考えている。小児性愛は根深い性質であり、その多くは男性のものであるが、思春期に明確に現れはじめ、その後変わることはない。

最も適切な推定によれば、男性の1パーセントから5パーセントが小児性愛である。ここで言う小児性愛とは、主要な性的関心が思春期前の子どもに向いているということを意味する。

全ての小児性愛者が子どもに性的な行為をはたらくわけではない。また、子どもに性的な行為をはたらいた全ての人が小児性愛者でもない。調査によれば、子どもに性的なこういをはたらいた人のうち半分は、被害者に性的な関心を持っていなかったという。彼らは人格障害を患っていたり、暴力的傾向があったりしており、また、被害者の多くは家族だった。

一方、小児性愛者というのは恋愛対象として子どもを見ている傾向が強く、家族や近親ではない相手を探すことが多い。たとえば、よくニュースの見出しに出るようなカトリックの聖職者、スポーツのコーチ、ボーイスカウトのリーダーなどの常習的な加害者がいる。

しかしその他の小児性愛者は「なんとか欲望を抑えようとしている、善人」だと、ジョンズ・ホプキンズ性行動相談ユニットの精神科医師フレッド・ベルリンは言う。「彼らは行為に至らないように必死に戦い、悩んでいる。私たちはこういった人たちに対して何もしてやれていない。むしろ彼らを地下に潜らせてしまっている」

犯罪者についての調査

トロントの「精神の健康と依存症」センターでは、子どもに最も関心を寄せる男性について調査するためにファロメトリーという手法を用いている。起訴された性的犯罪者についてここでなされた研究からも、小児性愛についての新たな発見が浮き上がって来ている。

調査では、成人と子ども、男性と女性など、様々な組み合わせの性的行為が描写された視覚的・聴覚的刺激物を、ひとりで部屋に座っている男性に見せたり聞かせたりする。この男性の陰茎には装置が取り付けられ、血液の流れがモニターされる。

成人に関心を持つ男性と同じように、小児性愛者もまた、どちらかの性に偏って強く関心を持っていることがわかった。多くの場合、対象は女性であった。

小児性愛の原因を究明するために、研究者らは、加害者が子ども時代に受けた虐待が主たる原因であるという普及した考え方を、ほぼ棄却することにした。調査によれば、虐待の被害経験があっても大人になったときに加害者になることは少なく、加害者のうち3分の1が被害経験があると語っただけだと言う。

トロントのセンターでは更に、小児性愛が生物学的な原因を持つ可能性を示唆するいくつかの関連性を発見した。

納得しうる発見のうちのひとつは、小児性愛者の30%(これは一般の3倍の割合)が左利きもしくは両利きであったというものだ。右利き・左利きというのは遺伝的な原因と子宮内環境のどちらの影響も受けて決まることから、科学者たちはこのつながりを、小児性愛者が生まれつき何か異なる性質を持っているという可能性を強く示唆していると考えている。

「唯一可能な説明は、生理学的なものです」と、調査リーダーのジェイムズ・カンターは語る。

研究者らは更に、小児性愛者は非小児性愛者よりも平均しておよそ1インチ背が低く、IQもまた10低いということも発見した。これは、出生前や小児期の発達上の問題と一致している。

2008年の調査でカンターの研究チームは、65名の小児性愛者の脳をMRIで調べた。性犯罪を犯したことはないが他の犯罪を犯したことのある人たちと比較した時、彼らの脳には白質(脳の接続回路)が少ないことも分かった。

これは、カンターのいう「クロス・ワイヤリング」という現象についても示唆的である。これは、魅力的な女性の近くにいるときに多くの男性が経験する神経反応が、子どもを見た時にも開始するという現象である。

脳の関与に関する更なる証拠は、抑制機能に影響を及ぼす脳腫瘍や神経系の疾患にかかっている男性について分かっている様々な例からも提示されている。

あるケースでは、バージニア州の40歳の教員が、それまで性的逸脱がなかったにもかかわらず、突然児童ポルノに興味を持ち始め、思春期前の義理の娘に性的行為をはたらいた罪で逮捕されている。

彼の判決の前夜、彼はひどい頭痛のため緊急治療室に行っている。そのときのMRIには、前頭葉の右側を圧迫している腫瘍が写っていた。

彼の担当医であるラッセル・スワードロウ医師によると、この腫瘍が取り除かれたことで、彼の強い関心は薄れたという。1年後彼はまた子どもに性的な関心を持つようになり、腫瘍を見ると、肥大していたことがわかった。

スワードロウ医師らは、この男性の子どもへの関心はむしろ昔からあったが、腫瘍ができたことでそれを自らの意志で抑制することができなくなったのだろうと話す。

なぜ一切法律を破ることのない小児性愛者がいるのかという疑問には、強い衝動の抑制がキーワードかもしれない。

欲望に対抗する

臨床医の多くは、小児性愛者の性的指向を変えることが不可能であると既に考えており、許されない欲望をどう抑制するかを指導することの方が好ましいと考えている。

専門家によると、成人にも強い関心を持っている小児性愛者は合法に性的欲望の一部を満たすことが可能であるため、継続してトラブルを避けることができる可能性が最も高い。そうでない場合は、性的衝動を抑えるホルモン注射が推奨されている。

しかしほとんどの小児性愛者は、逮捕されるまで誰にも気づかれない。

そういった状況を打破するために、ドイツの性研究者らは、2005年に変わったメディアキャンペーンを行った。

「あなたの性的欲望が罪なのではありません。でもあなたは、どういう性的行動をとるかについて責任があるのです」——こんな広告看板を出し、ベルリン性科学・性医療研究所への相談を募った。「対処法はあるのです!犯罪者にならないで!」

これはプロジェクト・ダンケルフェルド(英語でダーク・フィールド)と呼ばれ、紙面、テレビ、ネットの広告に反応した男性は1700名を越えた。8月には、衝動をコントロールする方法を指導する1年間のプログラムを終えた人々が80人になった。ホルモン注射を受けた者もいる。リスク要素の分析によると、予約待ちの人々と比べ、治療を受けた人々は子どもに性的行為をする可能性が低いと考えられている。

ドイツの研究者らは患者との守秘義務を約束している。研究所で査定された人々のうち半数が、既に子どもへの性的行為の経験がある。

このプログラムは多くの研究者に賞賛されたが、しかし子どもが傷つけられた可能性や傷つけられる可能性があることを知った臨床医や他の人々に当局への報告を義務づけている米国などの国では、同じプログラムは実施できない。

また、小児性愛を日陰から出そうとする草の根の動きもある。ブリティッシュ・コロンビアの心理学者アントン・シュヴァイコファーは最近、自身の患者の一人をヴァーチュアス・ペドファイルズ(Virtuous Pedophiles)に紹介したという。この団体は、欲望を行動に移したことがなく、これからもしたくないと思っている男性たちのためのオンラインの支援団体だ。

「問題を起こしたくない、その一心です」とその患者は語る。この工場労働者は、匿名であることを条件に取材に応じてくれた。「誰のことも傷つけたくないのです」

恥ずべき秘密を持つことは、多くの小児性愛者にとって、人生の重要な側面であり続ける。

10代の後半、クリスティアーノは体育を教えることになり、合計で何百もの女子を指導した。彼は職場で一切食べ物を食べず空腹状態にしておくことで、性的な感情から気をそらすことにしていたという。

「一切手は滑らなかった」と彼は言う。「素敵だな、可愛いなと思う学生はいた。自分の理想の世界だったら、彼女らをさらって、以後幸せに生きる、なんてことが可能な環境だった」

しかしこの世界においては、彼は3度も自殺を試みている。

1999年、ポルノを注文したとき、連邦おとり捜査にかかってしまった。刑務所に行くことはなかったが、イリノイの性犯罪者リストに永遠に名前が載ってしまった。

有望なダンスの振り付け師としてシカゴのメディアで賞賛されていたクリスティアーノは現在、失業手当、両親からの支援、そして低賃金の複数の仕事で生きている。罪があるため、これまで何度もアパートや仕事を失って来た。

「ペドゴミ野郎 PEDO PIECE OF GARBAGE」という言葉が、ある活動団体が彼のケースをオンラインに掲載したあとに彼に届いてメールに書いてあった。

彼の母、ジェニファー・クリスティアーノは、記憶の限りずっと前から彼は他の男の子と違っていたと言う。ちょっと変で、独創的で、演技(訳者注:ダンスのことだろうと思われる)をするのが好きで、クラスの女の子たちを熱愛していたのだそうだ。

「どんな思いか、言葉ではあらわせません」と彼女は語る。「あの子は私の唯一の子どもです。そして彼は一生本当に幸せにはなれない。彼は一生、本当に愛する人、彼のことを愛してくれる人と、一緒になることが出来ないんです」

alan.zarembo@latimes.com

(訳者 マサキチトセ masaki@gimmeaqueereye.org)

ABOUTこの記事をかいた人

1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。