翻訳『トランス嫌悪的なデマが基で暴力が発生したことは、反トランスのヘイトの危険性を過小評価することの危険性を示している』※2021.9.4追記あり

以下のスレート誌(進歩的メディア)の記事の下に、より新しい情報を含むニューヨーク・ポスト誌(保守メディア)の記事も翻訳して追記しました。実際に当日 Wi Spa を利用していたトランスジェンダー女性は存在したとのことです。それ自体は違法ではありませんし、Wi Spa は米国全体に無数にあるスパの中でトランスジェンダーの利用を公認している数少ないスパです。容疑者とされる人物は「性器を見せていた」「勃起状態だった」「子どもの近くにいた」という容疑に関しては否定しており、(記事の時点で)警察に自ら出頭する予定だそうです。また、通常通りのスパ利用をしていただけで犯罪者扱いを受けたことについて、告訴・民事訴訟を検討しているそうです。つまりスレート誌で「デマ」と書かれているもののうち「トランス女性がその日 Wi Spa を利用していた」という部分だけはデマではないことが分かった、ということです。詳しくは以下の2つの記事をご覧ください(正確さのために、原文を読むことをおすすめします)。

(エヴァン・ウルクハート スレート誌 2021年7月9日)

警察は、ロサンゼルスの Wi Spa の拡散された動画は捏造だろうと疑っている——しかしその動画がきっかけで、2名の人間が刺される結果となった。

7月3日、ロサンゼルスのスパの外で起きた反トランスジェンダーの抗議活動の結果、2名が刺されることとなった。それも、警察が現在はデマとして扱っているソーシャルメディア投稿が発端で。ことの発端は6月24日、インスタグラムのユーザーであるクバナエンジェル(cubanaengel)が、彼女自身及び少なくとも他の2名の女性がコリアタウンのウィルシャー通りにある Wi Spa のスタッフに対して女性の脱衣室で「ペニスのある男性」を見たことについて抗議している動画を投稿した。彼女は「大ごとにしてやる、そのために録画しているんだ。世界中に広めてやる」と説明しながら、4分にわたってこのクィア・フレンドリーなスパの非差別ポリシーについてスタッフを非難し続けた。

この動画がインターネットのトランス嫌悪的な人々の間で拡散され始めると、トランスコミュニティーの中には疑問を持つ人々が出てきた。特に疑問視されたのは、この動画において投稿者が見たと主張するその人(訳者注:「ペニスのある男性」と彼女が呼ぶ人)に対峙しようと階段を降りている時に動画が切れ、さらに都合の良いことに、彼女が憤怒している相手がカメラに映る直前に終了していることだった。この女性はペニスを見させられた子どもたちについて何度も言及しているが、動画には子どもは一切映っておらず、彼女たちも子どもと一緒にいる様子がない。これらの初期の疑問はさらに、トランス女性をそこで見たという目撃者を見つけることができなかったことで警察がこの件をデマだろうと考えていること、そして Wi Spa ではその日にトランスの客による予約が無かったこと(訳者注:Wi Spa は完全予約制 ※追記:マッサージなどのサービスを受けるのは完全予約制だが、施設利用自体は予約がなくてもチェックインできるとのこと)などを報じるロサンゼルス・ブレード誌の記事によって、さらに強化されることになった。(訳者注:ブレード誌の記事は @tsumatsuhime さんが日本語で解説スレッドをツイッターに出しておられます。)

この事件の恐ろしさを理解するには、このデマが何を主張しているかを把握するべきだ。その主張とは、トランス女性が使うことを完全に許可されている脱衣室を使ったということだ…それも、その脱衣室を使ったトランス女性なんていなかった日に。そのトランス女性がどんな悪いことをしたのか、どんな不適切な行動をしていたのかについては具体的な主張はされていない一方、動画における派手な言葉遣いはしっかりと想像をかき立てるもので、トランス嫌悪的な感覚を持っている人はそこに恐ろしくいやらしい、猥褻な行為を代入するよう導かれる。おそらくこれが、トランス女性が適切な施設で服を着替えたかもしれないという可能性についての憤怒が膨れ上がり、極右の暴力的な過激派の派遣団も参加した Wi Spa の外の抗議活動でその怒りが最高潮に達した理由だろう。2名の被害者は、反トランスの抗議者によって刺された。1人はカウンター抗議者(訳者注:反トランスの抗議に対する抗議をしていた人)で、もう1人は明らかに間違って刺されてしまった反トランス抗議者だった(訳者注:動画を見たが、地面に倒れた加害者を仲間が起き上がらせようとした時に間違えて刺されている)。

反トランス運動は往々にして、重要ではない付随的なものや、面倒な厄介ごと程度に解釈されているが、今回起きた一連の出来事は、どんどん過激になる反トランスのバックラッシュの本当の危険性を示している。今回の出来事とは、トランス女性が女性のスペースを使用していたという裏付けの無い主張が抗議活動を引き起こし、結果的に暴力に繋がり、女性が入院する事態にまで発展したということだ。そもそもそこにはトランス女性などいなかっただろうという事実は、極右がこのように噴き上がるために口実などろくに必要としていないということを端的に示している。トランスの人々と私たちの仲間は、この国で増大している反トランス感情を無視しているわけにはいかない。

原文筆者について

Evan Urquhart(エヴァン・ウルクハート)
トランスのジャーナリスト。
@e_urq

翻訳について

この文章は、上記原文筆者が執筆し、上記日付にスレート誌(オンライン)に掲載された "Violence Over a Transphobic Hoax Shows the Danger of Underestimating Anti-Trans Hate" を、マサキチトセが2021年7月12日に日本語に翻訳したものである。なお翻訳は推敲を経ておらず、原文との完全一致を保証するものではない。

その後保守系タブロイド誌に公開された記事も以下に紹介します

『Wi Spa 事件について性犯罪容疑者はトランスジェンダーに対するハラスメントと主張している』
(アンディ・ゴゥ ニューヨーク・ポスト誌 2021年9月2日)

※訳者注:写真や画像でセクションが分かれている部分は ---- で表記した。

ロサンゼルスにある Wi Spa において女性と自認する人がペニスを露出したとして、6月に複数の女性が苦情を出した。この事件の結果暴力的な抗議活動が何ヶ月にもわたって発生し、メディアはこれをトランスジェンダーに対する偏見の表出と言うに留まらず、そもそもそんな事件は発生しなかったと宣言した。スレート誌はこの事件を「トランス嫌悪的なデマ」と呼んだ。(訳者注1:このニューヨーク・ポストの記事では「トランスジェンダー」を "the transgendered" と表記している。この表記はトランスジェンダー当事者の大多数が反対している表記であることが、広く、少なくともメディア業界においては知られており、今現在の米国においてメディアに携わる者がこの表記を使うことは故意によるものだと解釈するのが自然。訳者注2:スレート誌の記事というのは、この記事の上に訳したもののこと。)

しかしこの月曜、ロサンゼルス市警の捜査の結果、ある連続性犯罪者が Wi Spa 事件での公然わいせつの容疑でこっそりと訴追されていた。

この事件に詳しい関係者は、公に語る権限を持たないとしながらも、Wi Spa の女性用のエリアでダレン・エイジー・マレーガーが部分的に勃起状態にあったと4名の女性と1名の未成年の女子が主張したと語る。この事件の容疑者であるほか、マレーガーはロサンゼルスの別の場所での公然わいせつの複数の罪でも訴追されている。(訳者注3:英語では罪を falony = 重罪、misdemeanor = 軽罪 に分けるので、厳密には原文の "felony" は「重罪」と訳せるが、日本語では通常こうしたニュース記事において重罪か軽罪かを分けずに表記するので、ここでは「重罪」と書くことで誤った印象を日本語の読者に与える可能性を考慮し、「罪」と表記した。また、「複数の罪」と書いたが、これは被害を受けたと訴えた人それぞれが罪とされるので、例えば一度に3人が訴えた場合3つの罪とカウントされる。)

本誌の独占取材に対しマレーガーは加害を否定し、自分はトランス嫌悪的な嫌がらせの被害者であると語った。

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6月23日、ロサンゼルスにあるコリアタウンの Wi Spa のスタッフに対し、女性用のエリアで男性器を露出している人がいるとして、数名の女性が抗議をした。このやりとりの動画は翌日インスタグラムでクバーナ・エンジェルというユーザー名の女性によって投稿された。

「女性用エリアに男が入って、ペニスを他の女性や若い女子たち——未成年の——に見せて回ることは、このスパでは許されているんですか?」と彼女はスタッフに尋ねた。「彼は男だ! 彼は男だ!」この3分半の動画は SNS でシェアされ、当然拡散されていった。

「クバーナ・エンジェル」は7月7日のパサディーナ市で弁護士とともに記者会見を行った。「私が歩いていたら、とてもおぞましいものに気づいたんです。あたかも男性用の更衣室に自分がテレポートさせられたのかと感じさせられるものです」と語った。

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彼女によると、女性・女子たちの中には不快感を感じる人が出てきて、ローブで体を隠し始めたそうだ。彼女はスタッフに苦情を言いに行き、動画を撮影した。しかしスタッフは、カリフォルニア州法のために、法的には何もすることができなかった。「私たちは女性として公のスペースで安全に過ごす権利があります。しかしそれが男性たちによって侵害されてるんです」と彼女は語る。

「クバーナ・エンジェル」と彼女の弁護士マーク・リトルにはこの記事を書くにあたってコメントを求めたが、却下された。

この動画が投稿されて以来、右翼とキリスト教福音派の抗議者と、アンティファと極左のカウンター抗議者たちのあいだで、時に暴力的な直接的やりとりが数週間続いた。7月3日、警察がこれらの2つのグループを引き離した際には、40名の逮捕者が出ていた。

ロサンゼルス市警はこれまで Wi Spa 事件についてほとんど詳細を明らかにしていない。問い合わせても、「捜査中」との回答が返ってくるだけだった。

そんななか今週、ロサンゼルス郡において、カリフォルニア州リバーサイド在住のダレン・マレーガー(52)に対し、Wi Spa 事件に関する5つの公然わいせつ罪の逮捕状が発行された。この記事の公開時点ではマレーガーは逮捕されていない。

「Wi Spa に関する全てのことは、莫大なでっちあげと嘘なんです」とマレーガーは取材に答えた。彼女はカリフォルニア州において法的に女性であり、「クバーナ・エンジェル」に突然乱暴に話しかけられた時には女性用エリアのジャグジーに入っていたそうだ。

「彼女は私の裸なんて一瞬も見ていません。私は胸まで水に浸かっていました」マレーガーはさらに一瞬も勃起状態になんてなかった、子どもの周囲にもいなかった、と否定した。むしろ自分は Wi Spa にいたトランス嫌悪的な女性たちによる性的嫌がらせの被害者であると語る。

警察情報から、マレーガーがこれまで2002年と2003年にカリフォルニアで公然わいせつの罪に二度問われている、一次リストに掲載されている性犯罪者であることが分かった。これらについて彼女はコメントしなかった。2008年には性犯罪者として登録することを怠った罪に問われてもいる。

カリフォルニアで民主党員によって成立した法が今年施行され、これまで一度登録されたら死亡するまで掲載される仕組みだった性犯罪者データベースが、段階制に代わっている。この法によって、より軽微とされる性犯罪を犯したものはデータベースからの削除を求めることができるようになった。しかしマレーガーは現在も起訴されている状態が続いているため、これを求める権利が無い。さらに彼女は他の性犯罪、不法侵入、脱走など4〜5つの罪で、カリフォルニアにおいて長い犯罪歴を持っている。(訳者注4:罪の数は原文では "nearly half a dozen" で「ほぼ6つに近い」。)

今回の公然わいせつの容疑に加え、彼女はさらに2018年12月に別の場所の更衣室で公然わいせつをしたとして6つの罪に問われている。(訳者注5:前述の通り、これは6人が被害を訴えたという意味であって、6回別の場所で公然わいせつを行ったと訴えられているわけではない。)この件では、西ハリウッド公園の水泳プールの更衣室で女性と子どもに対して公然わいせつを働いたと、ロサンゼルス郡の検察官らによって訴追されている。

ロサンゼルス保安局は2018年末に南カリフォルニアの警察各局に対して「マレーガーは女性用の更衣室やシャワーに入りたいがために、女性と自認していると主張している」と書かれた内部文書(フライヤー)を送付している。マレーガーは6つの罪全てに対して無罪を主張しており、次の裁判は9月8日に迫っている。マレーガーは一時的にこの地域に滞在しているだけだったのでそれを警察に伝えたが、2019年初頭に設定された保釈金は15万ドルだった(支払いは行われた)。

マレーガーは、彼女が現在も疑いをかけられている公然わいせつの複数の罪について、トランスジェンダーの人々を痛めつけようとする国や社会からの「虐待のパターン」をそれらが示していると語る。「(トランス女性も)入ってもいいよ(女性用のスペースに)と言われ、簡単に公然わいせつで訴えられ、逮捕されてしまう」

マレーガーは現在スコット・ウィーナー州議会議員などカリフォルニアの進歩的な議員たちと対話をしており、州法をよりトランスの人々を守れるものに改善するよう求めている。

「通常裸でいるのが普通の場所においては、公然わいせつを適用すべきではありません」と彼女は語る。今回警察や Wi Spa にいた女性たちから受けて苦しんだ差別に関して、告訴あるいは民事訴訟を起こす可能性もあるとマレーガーは言う。彼女は逮捕状が出たと知って地方検事局に既に連絡を取ったそうで、自ら出頭する予定だそうだ。

原文筆者について

Andy Ngo(アンディ・ゴゥ)
保守派のジャーナリスト。
Wikipedia によると「アンティファやムスリムに関する彼の報道には議論の余地があるものが多く、正確さや信用性について他のジャーナリストたちから疑義を投げかけられている。彼はミスリーディングな情報や都合の良い情報だけを出すことについて頻繁に批判を浴びていて、扇動家と呼ばれたり、ポートランド市の武装した右翼集団との繋がりも指摘されている」とのこと。実際今回の記事が掲載されたニューヨーク・ポスト誌(これも保守系タブロイド誌として有名)で「この記者の別の記事を読む」というところに行くと、ほとんどの記事が反左翼、反アンティファ、反リベラルのものだった。

翻訳について

この文章は、上記原文筆者が執筆し、上記日付にニューヨーク・ポスト誌(オンライン)に掲載された "Sex offending suspect claims transgender harassment in Wi Spa case" を、マサキチトセが2021年9月4日に日本語に翻訳したものである。なお翻訳は推敲を経ておらず、原文との完全一致を保証するものではない。

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1 個のコメント

  • […] エミリーさんのこの記事は、ソーシャル・メディア上での誤報を伝える実際の投稿を豊富に収集し、誤報が生まれるプロセスを具体的に検証しています。誤報の発信者のなかでも「ジェンダー・クリティカル」を自称する人びとは、自分たちは極右の言動や考えとは無関係に、「sex(生物学的性別)」という現実を無視して「(トランスジェンダーを除く)女性」の権利を侵害しかねない「セルフID」の推進に反対しているだけだと弁解するケースが少なくありません [訳注②]。ですがWi Spaをめぐる誤報の拡散の経過からは、「ジェンダー・クリティカル」の人びとと極右勢力が、おたがいを情報源としてエピソードやストーリーを共有しながら、誤報を通じて暴力的な活動を正当化してゆくプロセスが、ありありとわかります。この記事は、Wi Spaをめぐる一連の騒動そのものについてはもちろん、トランスジェンダーをターゲットにした誤報が広められるプロセス全般について考えるための、重要なヒントをあたえてくれるはずです。現在までに公開されている英文の関連記事として、大手のWashington Postによる記事のほか、ロサンゼルスのLGBTニュース提供サイトLos Angels Bladeによる報道や、オンライン上のデマや誤報に関する情報提供サイトTruth or Fictionによる検証などにも目を通すと、さらに理解が深まるでしょう。オンライン・マガジンSlate掲載の記事には、マサキチトセさんによる日本語訳もありますので、あわせて参照してください。 […]

  • ABOUTこの記事をかいた人

    1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。