翻訳『トランス嫌悪的なデマが基で暴力が発生したことは、反トランスのヘイトの危険性を過小評価することの危険性を示している』

(エヴァン・ウルクハート ステート誌 2021年7月9日)

警察は、ロサンゼルスの Wi Spa の拡散された動画は捏造だろうと疑っている——しかしその動画がきっかけで、2名の人間が刺される結果となった。

7月3日、ロサンゼルスのスパの外で起きた反トランスジェンダーの抗議活動の結果、2名が刺されることとなった。それも、警察が現在はデマとして扱っているソーシャルメディア投稿が発端で。ことの発端は6月24日、インスタグラムのユーザーであるクバナエンジェル(cubanaengel)が、彼女自身及び少なくとも他の2名の女性がコリアタウンのウィルシャー通りにある Wi Spa のスタッフに対して女性の脱衣室で「ペニスのある男性」を見たことについて抗議している動画を投稿した。彼女は「大ごとにしてやる、そのために録画しているんだ。世界中に広めてやる」と説明しながら、4分にわたってこのクィア・フレンドリーなスパの非差別ポリシーについてスタッフを非難し続けた。

この動画がインターネットのトランス嫌悪的な人々の間で拡散され始めると、トランスコミュニティーの中には疑問を持つ人々が出てきた。特に疑問視されたのは、この動画において投稿者が見たと主張するその人(訳者注:「ペニスのある男性」と彼女が呼ぶ人)に対峙しようと階段を降りている時に動画が切れ、さらに都合の良いことに、彼女が憤怒している相手がカメラに映る直前に終了していることだった。この女性はペニスを見させられた子どもたちについて何度も言及しているが、動画には子どもは一切映っておらず、彼女たちも子どもと一緒にいる様子がない。これらの初期の疑問はさらに、トランス女性をそこで見たという目撃者を見つけることができなかったことで警察がこの件をデマだろうと考えていること、そして Wi Spa ではその日にトランスの客による予約が無かったこと(訳者注:Wi Spa は完全予約制 ※追記:マッサージなどのサービスを受けるのは完全予約制だが、施設利用自体は予約がなくてもチェックインできるとのこと)などを報じるロサンゼルス・ブレード誌の記事によって、さらに強化されることになった。(訳者注:ブレード誌の記事は @tsumatsuhime さんが日本語で解説スレッドをツイッターに出しておられます。)

この事件の恐ろしさを理解するには、このデマが何を主張しているかを把握するべきだ。その主張とは、トランス女性が使うことを完全に許可されている脱衣室を使ったということだ…それも、その脱衣室を使ったトランス女性なんていなかった日に。そのトランス女性がどんな悪いことをしたのか、どんな不適切な行動をしていたのかについては具体的な主張はされていない一方、動画における派手な言葉遣いはしっかりと想像をかき立てるもので、トランス嫌悪的な感覚を持っている人はそこに恐ろしくいやらしい、猥褻な行為を代入するよう導かれる。おそらくこれが、トランス女性が適切な施設で服を着替えたかもしれないという可能性についての憤怒が膨れ上がり、極右の暴力的な過激派の派遣団も参加した Wi Spa の外の抗議活動でその怒りが最高潮に達した理由だろう。2名の被害者は、反トランスの抗議者によって刺された。1人はカウンター抗議者(訳者注:反トランスの抗議に対する抗議をしていた人)で、もう1人は明らかに間違って刺されてしまった反トランス抗議者だった(訳者注:動画を見たが、地面に倒れた加害者を仲間が起き上がらせようとした時に間違えて刺されている)。

反トランス運動は往々にして、重要ではない付随的なものや、面倒な厄介ごと程度に解釈されているが、今回起きた一連の出来事は、どんどん過激になる反トランスのバックラッシュの本当の危険性を示している。今回の出来事とは、トランス女性が女性のスペースを使用していたという裏付けの無い主張が抗議活動を引き起こし、結果的に暴力に繋がり、女性が入院する事態にまで発展したということだ。そもそもそこにはトランス女性などいなかっただろうという事実は、極右がこのように噴き上がるために口実などろくに必要としていないということを端的に示している。トランスの人々と私たちの仲間は、この国で増大している反トランス感情を無視しているわけにはいかない。

原文筆者について

Evan Urquhart(エヴァン・ウルクハート)
トランスのジャーナリスト。
@e_urq

翻訳について

この文章は、上記原文筆者が執筆し、上記日付にスレート誌(オンライン)に掲載された "Violence Over a Transphobic Hoax Shows the Danger of Underestimating Anti-Trans Hate" を、マサキチトセが2021年7月12日に日本語に翻訳したものである。なお翻訳は推敲を経ておらず、原文との完全一致を保証するものではない。

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1 個のコメント

  • […] エミリーさんのこの記事は、ソーシャル・メディア上での誤報を伝える実際の投稿を豊富に収集し、誤報が生まれるプロセスを具体的に検証しています。誤報の発信者のなかでも「ジェンダー・クリティカル」を自称する人びとは、自分たちは極右の言動や考えとは無関係に、「sex(生物学的性別)」という現実を無視して「(トランスジェンダーを除く)女性」の権利を侵害しかねない「セルフID」の推進に反対しているだけだと弁解するケースが少なくありません [訳注②]。ですがWi Spaをめぐる誤報の拡散の経過からは、「ジェンダー・クリティカル」の人びとと極右勢力が、おたがいを情報源としてエピソードやストーリーを共有しながら、誤報を通じて暴力的な活動を正当化してゆくプロセスが、ありありとわかります。この記事は、Wi Spaをめぐる一連の騒動そのものについてはもちろん、トランスジェンダーをターゲットにした誤報が広められるプロセス全般について考えるための、重要なヒントをあたえてくれるはずです。現在までに公開されている英文の関連記事として、大手のWashington Postによる記事のほか、ロサンゼルスのLGBTニュース提供サイトLos Angels Bladeによる報道や、オンライン上のデマや誤報に関する情報提供サイトTruth or Fictionによる検証などにも目を通すと、さらに理解が深まるでしょう。オンライン・マガジンSlate掲載の記事には、マサキチトセさんによる日本語訳もありますので、あわせて参照してください。 […]

  • ABOUTこの記事をかいた人

    1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。