「LGBT」の反義語は「異性愛者」ではありません

少年ブレンダさんによる性の多様性のマトリクス。縦の軸が上に行くほど「規範に伝統的」、下に行くほど「規範に自由」となっており、横の軸が左に行くほど「性別が変わらない」、右に行くほど「性別が変わる」となっている。左上のゾーンがシスジェンダー、右下のゾーンがトランスジェンダー、右上が性同一性障害(性別二元論のトランスジェンダー)、左下のゾーンが性別違和(ジェンダーロールなんかイヤです)、そして中央がXのゾーン(FtX、MtXなどなど……)。全てのゾーンに渡って、ピンクの三角形やオレンジの丸、青いクローバーや藍色の四角形などが散らばっており、これらは同性愛、両性愛、異性愛などの性的指向を指している。

「LGBT」という言葉がずいぶん普及してきています。テレビでもラジオでも雑誌でもウェブメディアでも「LGBT」という言葉はそこら中に出てきます。しかし、正に「LGBT」の権利や尊厳について語るコメンテーターやライターが、「LGBT」の反義語として「異性愛者」という言葉を使いまくっていることに、とても強い違和感を感じます。

「LGBT」という言葉を使っているのに、「私たち異性愛者は…」とか「Aさんは異性愛者ですが、LGBTの友人が…」とかのコメントやナレーションが流れるテレビ番組なんか見ていると、本当に、どういうつもりなのかと思います。

トランスは無視?

1つめの問題は、「LGBT」という言葉を使っていながら、実質そこで想定されているのは同性愛者のみ、というケースが多いことです。たとえば、トランスジェンダーで異性愛の人というのは、想定されていないか、あるいは「同性愛の亜種」のような位置づけなのでしょう(※)。

※:一方で、「性同一性障害」という言葉が使われるときは、同性愛者を「性同一性障害の亜種」のように勘違いしたコメンテーターが時々いるという、悲しい現状がありますね。

ある集合が、別の集合と一切重なり合わないとき、それを「これらの集合は相互排他的だ」と言います。つまり、どちらか片方であれば、もう片方「でも」あるということがあり得ない状況です。たとえば、以下のような感じです。

  • 「日本国籍保持者」と「外国籍保持者」は、複数の国籍を持つことが可能なため相互排他的ではありません
  • 「みかん」と「りんご」は、みかんだったらりんごではなく、りんごだったらみかんではないので相互排他的です

「LGBT」と「異性愛者」がもし相互排他的だとすると、こんな感じになります。

「LGBT」と「異性愛者」が相互排他的関係にある図。円グラフで、その8割近くが「異性愛者」、残り約2割が「LGBT」、その他には何も項目はなく、「LGBTかつ異性愛者」という部分もない。

でも実際には、「LGBT」と「異性愛者」は相互排他的ではありません

「LGBTではない人」を「異性愛者」と呼ぶのは、間違いです。この「LGBT」という枠組みに乗っかるのなら、きちんと乗っかって、「LGBではない人」を「異性愛者」と呼ぶべきなはずです。「Tではない人」には、「シスジェンダー」という名前が既に存在しています。「LGBTではない人」は、「シスジェンダーの異性愛者」です。

ブレンダのちょっと風変わりなLGBT講座シリーズで、少年ブレンダさんがこんな画像を作っています。

少年ブレンダさんによる性の多様性のマトリクス。縦の軸が上に行くほど「規範に伝統的」、下に行くほど「規範に自由」となっており、横の軸が左に行くほど「性別が変わらない」、右に行くほど「性別が変わる」となっている。左上のゾーンがシスジェンダー、右下のゾーンがトランスジェンダー、右上が性同一性障害(性別二元論のトランスジェンダー)、左下のゾーンが性別違和(ジェンダーロールなんかイヤです)、そして中央がXのゾーン(FtX、MtXなどなど……)。全てのゾーンに渡って、ピンクの三角形やオレンジの丸、青いクローバーや藍色の四角形などが散らばっており、これらは同性愛、両性愛、異性愛などの性的指向を指している。

ここでは、ピンクの三角形やオレンジの丸、緑の四角などが、同性愛、異性愛、両性愛などの性的指向を表しています。つまり、世の中が「LGBT」をセクシュアリティや性的指向を中心に考えているということに対抗して(かどうかは知りませんがw)、性自認や性別違和を中心に性の多様性を図に表してみたものです。

もし世の中のほとんどの人が性をこのように理解し、このような枠組みで「LGBT」が解釈され普及していたら——つまり性自認や性別違和を第一の基準にし、その上で「その中には色んな性的指向の人がいる」と解釈され、「LGBTではない人は「シスジェンダーの人」と呼ばれ、異性愛かどうかは横に置いておかれるような社会的認知の普及の仕方だったら——同性愛者は苛立ちを覚えるのではないでしょうか。その苛立ちは、「LGBT」と「異性愛者」を反義語のように使っている人たちがトランスジェンダーの人たちに日々与えている苛立ちと似ているかもしれません。

2 「LGBT」でも「異性愛者」でもない人

また、「LGBTではない人」を「シスジェンダーの異性愛者」と正確に言ったところで、すべての問題が解決するわけではありません。「正確に」というのは、現在普及している「LGBT」の枠組みに乗っかるならば正確だ、という意味に過ぎません。

パンセクシュアル、Xジェンダー、アセクシュアル、オムニセクシュアル、デミセクシュアルなどなどがあることを知っている人もいるかと思います。

また、「性別の組み合わせ」によって成立している異性愛、同性愛、両性愛というカテゴリー分け自体が、人それぞれの性のあり方を正確に描写できているとは限りません。自分の性的欲望や恋愛感情にとって、相手の性別が最も基本的な基準(最初にふるいをかける基準)になるというのは、世の中の人みんな全員そうではありません。

たとえば「絶対に色黒の人じゃないと無理。性別は出来れば男性がいいけど、色白の男性より色黒の女性の方がまだマシ。色白の人との恋愛なんて考えられない」という欲望のあり方は、異性愛、同性愛の枠組みではとらえられませんし、「あなたは両性愛者なんですね」と言われたとしても、「いや、女と男どっちもイケるって話じゃなくて、色黒しかイケないって話なんですけど……」と思うかもしれません。

ひとのセクシュアリティや性的指向は「LGB」だけでは表せません。また、上の少年ブレンダさんの図を見ても分かる通り「T」だって、とても複雑なものをとりあえずひとくくりにしているだけです。

だから、「LGBT」という言葉は、ひとの性のあり方を正確に描写できる言葉ではないのです。

でも、私も「LGBTQ」という言葉を使いますし、多くの人も「LGBT」という言葉を使っています。それは、世の中が人を「LGBT」と「シスジェンダーの異性愛者」に分けて、「LGBT」の方を差別して来た歴史があるからです。その歴史がなければ、「LGBT」と自分たちをくくる必要もありませんでしたし、そもそも名前をつける理由すらなかったでしょう。

性に関して私たちに名前が付けられているのは、差別者が私たちを差別するためにカテゴライズする必要があったからです。「同性愛者」も「オカマ」も「レズ」も「ホモ」も、罵倒語として存在して来た歴史があります。そういった言葉をあえて自称に使ったり、違う言葉に置き換えたり(「ビアン」「ゲイ」など)することを通して、私たちは今のところ「LGBT」というくくりかたに落ち着いているだけです。

「LGBT」は、性に関して差別を受けてきた歴史を持つ私たちのことを指す便利な言葉ではあります。だけれども、その言葉がいつも私たち一人一人の性のあり方を正確に描写するわけではないということは、頭に入れておくべきなのではないかと思います。

 

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