土俵際の南浦和

降りてください!
降りてくださーい!

つって。

もう何、どしたの? 誰がどこに登っちゃったのー? って。
やだジャングルジムのテッペンにうちの子が…! つって。
しかもなんか……裸……?

そんなワイルド(元気)かつワイルド(露出)な姉を持つ私ですが、
もうね、とにかく人生、降りるに限るっつーか。
ジャングルジムのテッペンとか危ないし、
満員電車の駆け込み乗車とかね、ほんと次のを待とう? って思う派。
そっち東京っしょ? って。3分刻みとかで電車来んでしょ? って。
こちとら30分とか1時間に1本のスローライフ送ってっから。(群馬)
沿線全体的にヒッピーなのかな? って。
たぶんヨガとかやってる。

私もたぶんにもれずヨガ精神っていうか、
右の頬を叩かれたら左の頬を出す派っつーか、(←宗教入り乱れ)
人生のモットーは「ま、いっか」ってとこあるし。
EAST END ✕ YURI か私かでしのぎを削ったこともある。(ない)

 

その日も「ま、いっか」って思ってた。

思ってたんだよ!!

電車のさ、一番ドアに近いとこに座ってたわけ。
よっしゃーつって。ゲットーつって。
ここはドアが開いた瞬間に誰もが夢見る玉座。
各車両、ちょっとしたフルーツバスケット状態。
玉座が一瞬にして埋まる。
年号変わりすぎて宮内庁も「和暦やめたい」って言い出すレベル。

みごと玉座争奪戦を制した私は、もう文字に表すなら
フフフン
としか書きようのない顔を浮かべてたと思う。

フフフン

フフフン

フフフン(サワッ)

フフ(サワサワッ)

フ…?(サワサワサワサワッ)

 

なんか右の頬に触ってるー!
すっごいソフトタッチ。フェザータッチと言ってもいい。
右を見上げると、そこには長髪の女性がこちら側にもたれかかって
ドアを挟んだ反対側の友達っぽい人と喋ってた。
あれ、空中ありだったっけ…?
私としては、こういうの(バリア)って、空中も基本ダメって言われてきた。
音楽室の生徒用オルガンで、隣の人に下敷きをあいだに立てられたこともある。

で、この女性、角度で言ったら、たぶん60度。
三角定規の二等辺じゃないほうのやつに似てる。
1対2対√3で言えば、私と彼女の距離が1。
彼女の背中が2。私が√3。
直線じゃないぶん、なんなら少し交差してる感じ。

えー、でも、ま、いっか。

持ち前の MAICCA 精神(©EAST END ✕ YURI)とヘタレさでもって、
受け入れた。

サワサワッ

サワサワサワッ

なんなら時々電車の動きに合わせてフワサァアッっつーアレンジも入る。

玉座にいたはずなのに、気づいたらピサの斜塔みたいになってた。
こう、左にググっと。
私と彼女の夏の大三角形が平行四辺形になりかけてた。

そんなとき、おっさんの声で「ちょっと君ぃっ!」って聞こえて。

えーやだやだ揉め事? 電車だよ? ここ。やめてー。
こないだも電話で小声で話してる20代っぽい女子に、
おっさんが「今すぐ電話を切りなさい! 迷惑だ!」って叫んでたし。
どんだけ治安悪いの、電車ーーー!

って思ってたら、反対側のドアのとこにいたおっさんが、
なんかこっちに向かってくる。
えーーーえーーーーーーなにーーーーーーー?

したらおじさん、

「君の髪の毛がねえ、この人にあたってるんだよ!」

って叫んだの。

 

目が覚めたね。
うん、ピサの斜塔、ちょっとうとうとしてた。
でね、これまでの人生、数々の目覚まし時計が私の睡眠欲の前に倒れていったわけ。
こちとらちょっとやそっとじゃ起きねー強靭な睡眠力なわけ。
朝みんなが「地震すごかったね〜」って盛り上がってるなか、
これ以上のキョトンは無いんじゃないかっっつーキョトン顔してきたわけ。
ピサのキョトン。(言いたかっただけ)

でももう、この場はキョトンどころじゃなかった。
キョトンがぴっくりレベル1だったら、今回のこれはレベル2000くらいだった。
えそれシーベルトになってる? ミリシーベルトになってない? って。

 

私ーーーーー??

私の話ーーーー????

 

もういいんだって、夏の平行四辺形でいいんだって!
受け入れたんだって!
ピサの斜塔うとうとしてたよって。

したら女性のほうもこっち振り向いて、「あ、すいません」っつって
体を起こしたから、一瞬にして夏の台形になって。
私もあらよっと垂直に戻って、「いえ…(エヘヘ」みたいな微笑みを返して。
全然大丈夫! 気にしないで! ってのを全身から出したんだけど。

 

「そんなねー! 人の髪の毛なんかあたってたらねー、気持ち悪いんだよ!」

 

伝わってなかったーー。
おっさんにこの大丈夫ですって気持ち、1ミリシーベルトも伝わってなかったーー。
「気持ち悪い」とか私言ってないしーーー。ほんとやめてーーー。

したら女性のほうも割と沸点低めで、
「気持ち悪いって何ですか!」とか応戦し始めちゃって。

もーね、平日午後の電車の中で、ちょっとした戦。
女性の友達(っぽい人)も「そうですよ!」とか言っちゃって。

 

ほんとやめてほんとやめてほんとやめてほんとやめてほんとやめて。

私のことで争わないでー!! っつー、
一生共感することはないと思ってた竹内まりやに、いますっげー共感。
わかる、わかるよまりや。
こういうことね! って。
大人の階段登った。

油断してっと、こういうやつは、
「この勝負に勝ったほうが、まりやをものにするんだ」なんて言い出すから。
ちょっと待ってー! って。
まりやの気持ち、置いてきぼりくってるよー! って。

私もごたぶんにもれず、置いてきぼりくってた。
目の前で繰り広げられる湘南新宿の乱が、終わらねえ終わらねえ。
置いてきぼりもくってたし、なんならちょっとランチパックも食ってた。
人間、本当に焦るとランチパック食ったりできるんだなーって思った。

で、もうそのとき私の頭にはこの一言しかなかった。

「降りてえ……」

今すぐ降ろして!
次の駅はどこ? 浦和? いいよもう今日から浦和に住むよ!
今日から私の最寄り駅は浦和!
なに、南浦和? じゃーそっちで!

なんつって、
なんか知らないけどヘコヘコしながら低姿勢で南浦和の駅に降り立った私。
戦ってないのに、帰還兵みたいな顔してたと思う。
民間人なのに……。

 

でね、かたやTVのニュース。
「女性のかたは降りてください!」「女性のかたは降りてください!」って
何度も何度も聞こえてくるわけ。

うるせーよと。
女性のかただって、降りたいかもしれない。
目の前で話してた市長が突然土俵の上で倒れて、
エマージェンシー中のエマージェンシーで、
医療の心得がある者として、やっぱここで出ないでどうするみたいな
義務感っつーか正義感っつーか、そういうアレで土俵に乗っちゃったけど、
めっちゃ激しく心臓マッサージしながらも、
やだすっごいめんどくさい、これで助からなかったら私のせいっぽくない?
これテレビ中継されてんじゃなかったっけ?
私の救命っぷり全国放送されてんじゃない?
あー、先輩見てるかなあ。
やだなあ見てたら。
「お前さー、俺言ったよね? 心マは1分に100回って。なに105回やってんの?」
とか絶対言われる。あの人そういう細かいとこある。
自分は看護師って呼ばれることにこだわってるのに、
ほかのナースのこと「お前ら看護婦はさー」とか言っちゃう上からなとこある。
すっごいやだ、もう降りたい。
ちょーめんどくさい。

って思ってたかもしれないじゃんね。

でも「命のために!」って、「救うんだ!」って。
私が救える命なら、全力で救いたい! って。
そう思って、あと先輩が見てなければいいなーって思って、
全力で心臓マッサージしてたんじゃん。(推測)

それをなに、「女性のかたは土俵から降りてください」って。
バカにすんじゃねーよって。
降りたくても、私たちは、降りられないんだよ?
南浦和に着くまで、降りられないんだよ?

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ABOUTこの記事をかいた人

1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。趣味はイラストと音楽制作。 2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。