婚姻制度は官製の弱者ビジネスです(松沢さんへの応答)

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2022年11月20日

5. 人種差別撤廃条約は、今回の議論に関係あるか

なぜか松沢さんは、「人種差別撤廃条約をそのまま国内法に落とし込んだところで、『性指向』がこの条約における差別の範囲に含まれていないため、『異性愛者は結婚できるのに、同性愛者は結婚できないこと』はこの条約に反することにはならない」と述べています。セクシュアリティーもセクシュアル・オリエンテーションも「人種」じゃないので、そんなの当然のことなんじゃないかと思うんですが、おそらく次の点が関わっているのだと思います。

6. 東京大行進が同性婚の実現を求めるべきだった、という批判はあったか

ありませんでした。いや、私の認知する範囲においてですが。(そういう批判を見たけど忘れた、という可能性もありますけど、いずれにしても私個人はそういう批判をしていないし全くそんな批判を心に抱いてもいないので、松沢さんの投稿を読んだひとは、誤解しないでくださいね。)

同性婚をどのように実現するかについての議論が不十分である現段階で、同性婚の実現を求めるかどうかについて「なんで『東京大行進』が結論を出せましょうか」と松沢さんはレトリカルに「出せないよ」と主張しています。また、同性婚が人種差別撤廃条約の範疇にはないということを説明していたのは、大行進が「日本政府に」「誠実に履行するよう求め」ていたのは人種差別撤廃条約なのだから同性婚の実現を求める義務はない、ということを言いたかったのではないかと思います。やっと謎が解けました。

大行進が同性婚の実現を求めるべきだったという批判がおかしいと思う点に関しては、私も松沢さんと同意見です。わたし、(ただ同性も結婚できるようになるってだけだったら)同性婚は実現しないほうがいいとすら思ってるので。

7. 婚姻制度の差別性を指摘しているひとは、同性婚の「議論と周知」を十全に行ってこなかったという責任を負うべきなのか

松沢さんは、このように主張します。

議論と周知が十全になされていないことの責任は、それを求める人たちにもある。もっと議論して知らしめる努力をしなければ実現しねえわさ。こういう作業を怠ってきた人たちが「現行の婚姻制度は差別だぁ」として、結婚を選択した人たちに責任を負わせたところで同性婚の実現にはなんら寄与しない。ただの嫌がらせにしかならず、自己の責任放棄でもあります。

これそのまま読むと、「婚姻制度が差別的なのは同性婚が実現していないからであり、同性婚が実現していないのは婚姻制度の差別性を指摘している人たちの努力が足りないからであり、ゆえに婚姻制度の差別性の責任は婚姻制度の差別性を指摘している人たちにある、にもかかわらずそいつらは婚姻制度の利用者に責任を負わせようとしている」というストーリーなのだと思うんですが、最初は何言ってるんだかさっぱり意味がわかりませんでした。でもたぶんその解釈で合ってるっぽいので、私の考えを述べておくと、(1)婚姻制度が差別的なのは上で書いた4つのレベルでの差別性があるからですし、(2)同性婚が実現していないのは様々な理由があるので誰かのせいとかじゃないですし(努力すれば実現するっていう社会運動論はものすごく珍しい新理論だと思うので、是非学会発表でもして既存の社会運動論専門家をギャフンと言わせてきてください)、(3)婚姻制度の差別性の責任の所在は性差別・性的指向差別・高齢者差別・障害者差別・外国人差別・民族/人種差別・言語差別などを支える制度(法や政治、経済の仕組み)と、それと互いに影響・補強・微調整しあう文化意識や社会通念の存在、及び私たちの日々の行動や言語使用の場ですし、(4)婚姻制度の利用者に婚姻制度の差別性を指摘するのは「責任を負わせ」ようとしてるのではなく婚姻制度の差別性を知ってもらいたいからです。

以上です。

ABOUTこの記事をかいた人

1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。