翻訳『なぜ北朝鮮は核兵器を必要とするのか』(文:スティーブン・ゴーワンズ、翻訳:マサキチトセ)

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2022年11月20日

訳者より:この文章は Stephen Gowans が2013年2月16日に自らのブログに投稿した文章を、私、マサキチトセが和訳したものです。原文はここをクリックすると読むことが出来ます。

訳者はこの文章におけるすべての論点に同意するわけではなく、また、ここに書かれていない論点の重要性を矮小化する意図もありません。この文章の大きな問題として、第二次世界大戦のあと日本が米国に主導された反共産主義的な動きに仲間入りし、戦争責任を果たすこともせず、植民地支配時代の清算を経ずに戦前の支配層を戦後ものさばらせてきたこと、そして東アジアにおける米国にとっての便利な基地用地として沖縄を中心として領土を提供し、(この文章でも指摘されているように)備蓄庫として、また戦場として米国にその領土を提供してきた韓国とともに、北朝鮮(そして中国、ロシア)への米国による反共産主義的かつ軍事主義的な介入に協力してきたことなど、日本の責任がほとんど触れられていないことがあります。しかし一方で、韓国の責任は厳しく追及されています。

こういった問題をはらんでいる文章を翻訳し、世に出すということは、それ自体が政治的な行為であります。生まれたときから日本国籍を持ち、親世代も祖父母も自分たちが日本国籍を持っていることに全くの疑問を抱かずに生きることができたような人間が、そのような政治的な行為を行うことには、暴力が必然的につきまとうでしょう。今後も継続して日本の帝国主義の責任、戦争責任、戦後責任について学び、共有し、思考を継続していくことを自らに課し、今回この文章を翻訳することにした意味と自分の責任についても考えてゆきたいと思います。

また、なぜ日本語や朝鮮語で書かれた文章を紹介するのではなく英語の文章なのか、という問題もあるかと思いますが、朝鮮語は私が理解力を持たないということ、また、日本語に関しては、漢字がたくさん使われている歴史に関する文章が個人的に苦手だということが理由です。日本の歴史について学ぶときに「漢字が多いと読むのがつらい」というのは大きな障壁となると思いますが、これも今後の課題とさせてください。

以下、翻訳文となります(注釈は訳していません)。誤字・脱字、誤訳についてお気づきの点がありましたらコメント欄等でご指摘ください。また、プロの翻訳家ではないので、あまり正確さを期待しないで下さい。

2013/4/18追記:「朝鮮民主主義人民共和国を旅行中に朝鮮人に話をきく」という記事(翻訳)も見つけました。あわせてどうぞ。


『なぜ北朝鮮は核兵器を必要とするのか』

3度目となる北朝鮮の今回の核実験は、歓迎されるべきか、嘆かれるべきか、あるいは非難されるべきだろうか。それは、あなたの視点次第だ。他国の支配や介入を受けることのない内政を可能とするべきだと信じるのであれば、そして、その権利を、米国と米国に追従するソウルの政府が南の朝鮮人から奪っており、北の朝鮮人のそれも奪おうと企んでいると信じ、更に、米軍の征服を阻止するために核兵器を建造することが北の朝鮮人が自国の統治権を維持する最も有効な方法だと信じるのであれば、今回の核実験は歓迎されるべきものであろう。

もしあなたがリベラルなら、平壌が完全に永久に検証可能な形でその核兵器計画を白紙にする代わりに、 DPRK (朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮の正式名称)に対して米国は安全を保証するべきだと考えるかもしれない。もしそうなら、そのようなあなたの立場について、3つの問題を考える必要がある。

  • 米国の高官らによる熱のこもったレトリックとは裏腹に、米国は北朝鮮によって脅(おびや)かされてなどはいない。北朝鮮の核兵器による軍事力の脅威は、単なる防衛的な意味しか持っていない。核兵器による先制攻撃が米国による圧倒的な核の報復攻撃を引き起こすことに、 DPRK の統治者らが気づいていないということはない。報復攻撃は、ビル・クリントン大統領(当時)が警告したように、「私たちが知っているような形での彼らの国が、終焉を迎えることを意味する」。北朝鮮の先制攻撃が自殺行為であること(そして北朝鮮の統治者らにそれが充分理解されていること)は、つまり、平壌が核兵器を保有していようが保有していなかろうが、米国の国防にはほとんど影響がないということだ。では、ワシントンが安全の本質的保証を行う動機は、何かあるだろうか。米国が国防の観点から検討して保証を行うことはありえない。その理由は、核武装した北朝鮮は、核放棄した北朝鮮と同程度の脅威——ほぼゼロ——しか米国に対して持たないからだ。
  • 朝鮮半島において共産主義と反帝国主義のあらゆる表出を排除するために1945年からワシントンがどれだけの血と金を注いできたかという現実を考えると、安全の保証というものがどれだけ信用に値するものか疑問である。もし米国が安全の本質的な保証をすることができると主張するのであれば、米国の方針が朝鮮において共産党を抹殺しようとしてきた立場から一変して緊張緩和の立場に抜本的な質的変更を行ったことの背景になにがあったのか、説明しなければならないだろう。
  • なぜ北朝鮮だけが核放棄する義務を負うのか。米国もそうすべきではないのか。

保守的な見方(これについて長く話すつもりはないが)は、北朝鮮が行うことは、降伏することを除いて、すべてが非難に値する、という非常にシンプルなものだ。

あるいは、あなたは、核の拡散防止に逆行するという点、そして核兵器保有国の数が増えるほど戦争が起こる可能性が上がるという考えから、平壌の今回の核実験を嘆くかもしれない。しかしこの考えは、検証されることで、ボロボロに崩れさる。イラクから大量破壊兵器が無くなったことは、同国への米国からの介入の可能性を減らすどころか、増やしてしまった。リビアの統治者ムアンマル・カダフィが自らの大量破壊兵器を放棄したことは、 NATO によるリビアへの攻撃を阻止するどころか、攻撃しやすい状況を作ってしまった。自国の市場・天然資源・投資機会に米国の支配階級がアクセスすることを拒否し、自国の発展のためにそれらを利用しようとする国が武装解除すると、それは侵略戦争されるリスクを軽減するのではなく、侵略戦争されることを実現してしまうのだ。

ラディカルな見方では、資本主義の隆盛以降の侵略戦争の要因は、利益追求である。この衝動は、企業支配化された社会の商品・サービス・資本を世界中追いかけ、現地の人々の望みや、利益、発展上の必要性、そして福祉を全く無視した形で、すべての地域に定住し、巣を作り、コネクションを作る。貿易や出資契約を通した資本の侵入をその領土が自ら受け入れない場合、米国の支配階級の利益追求を第一に優先し支援する世界経済体制の最後の手段としての執行者ペンタゴンによって、閉じた扉が叩き割られることになる。

背景

北朝鮮は長い間、敵意に満ちた、挑発的な、何をするか分からない国として西洋のメディアによって謂れのない中傷と非難を浴びてきたため、 DPRK が賞賛に値する何かを象徴しているという事実を見るために必要な冷静な理解を阻害する罵倒の霧の中をかきわけることは、困難である。この「賞賛に値する何か」とは、第二次世界大戦の終戦及び日本の植民地支配時代から続く多くの朝鮮人の経験に端を発する、抑圧と他国の支配に対する闘争の伝統である。朝鮮人の、朝鮮人によって、朝鮮人のために作られた国家政府であり、1945年9月に米軍が仁川(インチョン)に到着したときに既に存在していた、朝鮮人民共和国(訳者注:6日間存在した臨時政府)の存在に、この伝統を見いだすことができる。この新政府は、日本の植民地支配への抵抗を先導し、地主や資本家による搾取を緩和することを約束したことで多数派の支援を得た左翼によって構成されていた。1948年まで北部を支配していたソビエト連邦はその支配領土内で朝鮮人民共和国政府と協力して動いていたが、南部において米国は朝鮮人民共和国政府を制圧し、自らの支配領土において左翼勢力を抹殺しようとし、抑圧および日本人への協力から朝鮮人に嫌われていた保守派を支援した。1948年までには、この半島は日本の支配から朝鮮を解放するために戦うゲリラや活動家によって先導される北の政府と、米国が就任し、植民地支配への協力者という汚名を帯びた保守派に支えられた反共産主義者によって先導される南の政府に、分割されてしまっていた。その後65年間、これらの政権同士の争いは本質的に何も変わっていない。韓国大統領になる朴槿恵(パク・クネ)は、1961年に軍事クーデターによって権力を得た元大統領である朴正煕(パク・チョンヒ)の娘である。朴正煕はかつて日本帝国軍にいた。北朝鮮の現統治者である金正恩(キム・ジョンウン)の祖父、金日成(キム・イルソン)は、協力的だったパクとは対照的に、日本人に奉仕するのではなく、ゲリラの重要なリーダーとして日本人を相手に戦った。北が象徴するのは、政治的にも経済的にも他国の支配に抵抗した伝統であり、一方で南が象徴するのは、他国の覇権に対する服従と協力の伝統である。韓国には他国の軍隊が配備されているが、北朝鮮には一切無いということも、象徴的である。北朝鮮の軍隊は国外で戦闘したことがないが、韓国の軍隊は、米国人から支払われる傭兵代金(訳者注:適切な専門用語があるかもしれませんが、不勉強にて知りません)の投入と引き換えに、ベトナムでの忌むべき軍事活動に従事し、更にのちにイラクでも戦闘している。民間人の制圧においても、右翼的な思想に基づく韓国の権威主義は長期に渡って継続されており、典型的なものは、悪意に満ちた反共産主義の国家保安法である。この法は、北朝鮮に好意的な発言を公に発表した者に厳しい処罰を与えるものである。また、韓国の警察国家は北朝鮮に好意的なウェブサイトへのアクセスをブロックし、ノーム・チョムスキーの著書や、異端の(だが資本主義には賛成している)経済学者、張夏准(チャン・ハジュン)の著書などを含む書物を発禁し、北に渡る者を投獄している。

圧力

朝鮮戦争以来、米国と韓国は継続的に北朝鮮に対して政府破壊行為やスパイ活動、プロパガンダ、経済的攻撃、核攻撃の脅迫や軍事侵攻を通して、圧力をかけてきた。低強度紛争は、その最終的な目的を、北朝鮮政府の崩壊としている。絶え間ない軍事的圧力は、平壌に過酷に莫大な防衛費を維持することを強いている("Songun" [先軍政治] という正式な方針となっている)。莫大な防衛費は、市民経済から重大な資源を奪い取り、経済発展を遅らせてしまう。同時に、貿易制裁・経済制裁は同国の経済に更なる痛手を負わせている。経済混乱は食料の供給を阻害し、多くの北朝鮮人の生活を過酷なものにし、人民に不満の種を撒いている。人々の不満は更に、政治的な反対派を生み出し、それを制圧・抑制するために市民権や政治的自由の制限が執行されることになる。こういった状況を受けて、ワシントンは不誠実にも、平壌の軍事費を、北朝鮮人は「飢餓状態にある」のに、と強く非難する。また、平壌の核兵器計画を(米国による軍事脅威に対する防衛ではなく)「挑発」だとして非難した。更に不誠実なことに、同国の経済的危機を(制裁や締め付けではなく)国有や中心計画の内在的な弱点のせいであるとしている。また、(実質的には米国の圧力に帰せられるような)反政府的な動きに対する制圧的なやり方について、 DPRK を強く非難してもいる。つまり別の言い方をすれば、ワシントンが DPRK を悪魔化し信用を失墜させるために強調している北朝鮮の遺憾な特色というものは、米国の対北朝鮮政策の結果であり、根拠ではないということだ。 DPRK の核兵器計画、経済危機、抑圧などがあって、それに対して米国の政策があるという見方は、因果関係を逆にとらえている。

米国対外政策

米国の対外政策は、他国の市場・天然資源・投資機会へのアクセスを確保・保護すること、そして社会福祉や国内の開発計画などがそのアクセスを阻害・制限したり、重荷になったりするのを避けるため、共産主義者や国家主義者たちによるコントロールを排除することを目的としている。

一般的な法則として、第三世界の各政府に対するアメリカ政府の態度は[…]それらの国が自国においてどれだけアメリカの自由経済主義を支持しているか、今後支持する可能性がどの程度あるかに、大きく左右される[…]この視点では、私的所有や民間企業を廃止することを正に主目的とする政府が実権を握ることが至上の悪とされることは明らかである[…]これらの政府が大いに腹立たしい理由は、かれらの行為が外資の利権や企業に大きな影響力を持ってしまうことや、将来資本主義を植え付けることを不可能にしてしまうことのみならず、世界的制度としての資本主義事業から抜け出す国がひとつでもあれば、それはその事業の弱体化を示してしまうのであり、更なる異議の発生や撤退を促してしまうからである。1

北朝鮮は、ここで言う「至上の悪」に手を染める少数の国のひとつである。軍事圧力や経済攻撃に邪魔されずに平和的に発展することを許されてしまったら、同国は他国にとってのいい前例となり、あとに続く国も出てきてしまうかもしれない。米国支配階級からしたら、米国の対北朝鮮政策の最大の目的は、 DPRK の終焉でなければならない。ニューヨーク・タイムズ紙に米国の対北朝鮮政策の目的について聞かれ、当時の軍備管理担当の国務次官ジョン・ボルトンは「本棚に向かって一歩近づき、一冊の書物を取り出し、机に投げ出した。それは『The End of North Korea』(訳者注:『北朝鮮の終末』)という本だった。」「『それが』と彼が続けた。『私たちの政策だ』」。2

更に、利益追求の目標や、他国がまねしたくなるような国として北朝鮮が頭角を現さないように経済的・政治的・社会的に機能しない状態にするということに加えて、ワシントンは、米国の完全な世界征服のふたつの大きな障害である中国とロシアに圧力をかけるための前線基地に都合のいい近距離の戦略的な場所へのアクセスを半島において確保するために躍起になっている。

核戦争の脅威

朝鮮戦争60周年に公開されたものなど、機密扱いを解かれたものを含む米国の政府書類によると、「1950年代のペンタゴンから現在のオバマ政権に至るまで、米国は北朝鮮に対する核兵器の使用を検討し、計画し、脅迫してきた。」3 これらの書類は、米国政府高官の公的声明とあわせて、北朝鮮に対する米国の核威嚇の継続的なパターンを示している。

  • 米国は早くも1950年に朝鮮半島に核兵器を持ち込んでいた。4
  • 朝鮮戦争中、米国大統領ハリー・トゥルーマンは核兵器の使用を積極的に検討していることを表明し、米国空軍の爆撃機は平壌の上空で核演習を行った。また、米国の総司令官ダグラス・マッカーサーは30から50の原子爆弾を朝鮮半島の北側の地峡に落とすことで中国の介入を阻止する計画を立てていた。5
  • 1960年代後半、核を装備した米国の戦闘機は15分で北朝鮮を爆撃できる場所に配備されていた。6
  • 1975年、国防長官ジェームス・シュレシンジャーは、韓国において米国の核兵器が配備されていることを初めて明かした。シュレシンジャーは、「(米国の)反応を試すのは、懸命ではない」と北朝鮮人に対して警告した。7
  • 1993年2月、米国戦略軍の総司令官リー・バトラーは、北朝鮮内の旧ソ連(を含む、複数のターゲット)を再度水素爆弾による爆撃のターゲットとしていることを明かした。1ヶ月後、北朝鮮は核拡散防止条約から手を引いた。8
  • 1993年7月22日、米国大統領ビル・クリントンは、もし北朝鮮が核兵器を開発し使用した場合、「我々は即時、圧倒的な報復をする。それは、私たちの知る形での彼らの国の終焉を意味するだろう」と発言した。9
  • 1995年、米国統合参謀本部議長であり、のちに国務長官となるコリン・パウエルが、米国は北朝鮮を「練炭」にしてしまう手段を持っていると北朝鮮人に警告した。10
  • 2006年10月9日の北朝鮮発の核実験をうけ、国務長官コンドリーザ・ライスは「米国は全力を出す意志と能力を持っている——日本に対する戦争抑止と安全上の責務を果たすための全力を」と北朝鮮に再度警告した。11
  • 2010年4月、米国国防長官レオン・パネッタは北朝鮮に対する米国の核攻撃を可能性から排除することを拒否し、「すべての選択肢が出そろっている」と述べた。12
  • 2013年2月13日、パネッタは北朝鮮を「米国、地域的安定、そして世界の安全に対する脅威」と表現し、更に「間違いなく、朝鮮共和国(訳者注:韓国のこと)と周辺の我々の同盟国に対する防衛上の責務を果たすために必要な手段をすべて採ります」と加えた。13

北朝鮮人が言うように、「朝鮮人ほど直接的に、長期にわたって核の脅威にさらされてきた国は、他にない」。14

1950年代から半世紀以上にわたって、米国は、核戦争の止まることのない策略を通して DPRK を大いに脅迫しながら、韓国を極東最大の核兵器保有庫としてきた。 DPRK の主権、存在する権利、発展する権利を奪うために、米国は躍起になってきた[…]そうすることで、 DPRK の社会主義経済確立と人々の生活の水準の向上に対してとてつもない損害を与えてきたのだ。15

経済攻撃

北朝鮮に対する米国の経済攻撃の幅広さとその激しさは、ふたつの文にまとめることができる。

  • 北朝鮮は「世界で最も制裁を受けた国だ」 ——ジョージ・W・ブッシュ16
  • 「[…]これ以上適用する制裁はほとんどない」——ニューヨーク・タイムズ17

1950年6月に朝鮮戦争が始まって3日後に北朝鮮への輸出を停止した瞬間から、米国は北朝鮮に対して一切やむことのない経済・金融・外交上の制裁体制を維持してきた。以下のものがそれに含まれる。

  • 商品とサービスの輸出制限
  • ほぼすべての対外援助の禁止と、農産物販売の禁止
  • 輸出入銀行の出資禁止
  • 好意的な貿易条件の拒絶
  • 北朝鮮からの輸入の禁止
  • 国際金融機関を通しての借り入れや資金提供の一切の停止
  • 北朝鮮に輸出される食物および医薬品の輸出承認の制限
  • 北朝鮮に輸出される食物および医薬品に対する政府融資の禁止
  • 輸送に関する輸出入取引の禁止
  • 多目的物品(軍用に転用できる民間向け商品)の輸出禁止
  • 銀行商取引の一部禁止18

近年では、北朝鮮の企業と取引のある銀行を米国の銀行システムから除外することによって「財産凍結および金融移動停止のための努力」19がされ、米国による制裁は更に強化されている。意図されているのは、北朝鮮を世界中どの銀行も関わりたくないような のけ者にすることだ。米国の前大統領ジョージ・W・ブッシュは、北朝鮮の経済が崩壊するまでは「可能なすべての金融制裁を用いて北朝鮮を締め付けると決めていた」20。オバマ政権も、ブッシュの方針から依然変わっていない。

ワシントンは更に、マルクス/レーニン主義システムと非市場経済を維持していることで北朝鮮を非難し、そのような国に対する経済制裁には他国も協力すべきだと迫ることで、制裁を更に痛ましいものとしてきた21。これには、すべての国に北朝鮮に対する多目的物品の輸出を控えることを強いる国連安全保障理事会の決議を提案したことも含まれる(1990年代にイラクの健康保険制度を崩壊させることになった制裁体制の焼き直しである)。ワシントンは更に、北朝鮮の石油供給を停止することを中国に迫ることまでした(これは失敗に終わっているが)。22

適切な教訓

バグダットが米国侵略軍の支配下に落ちた日、ジョン・ボルトンはイラン、シリア、北朝鮮に対して「イラクから適切な教訓を得るべし」と警告した23。平壌が教訓を得たことは間違いない。ただ、ボルトンが意味していた形の教訓ではなかったが。北朝鮮人は、ボルトンが望んでいたように、大量破壊兵器を放棄することで平和と安全が手に入るのだとは結論づけなかった。むしろ、イラクに対する米軍の攻撃の本当の教訓を、北朝鮮人はしっかりと学んだのだ。米国がイラク侵攻したのは、サダム・フセインが大量破壊兵器を破棄せよという米国の要求に応じることで、イラク侵攻の準備が整ったあとのことだ。もし彼が隠して持っていると誤って非難されていた大量破壊兵器を実際に持ち続けていたなら、米国人は攻撃をしなかっただろう。

その後リビヤで起きたことは、この教訓をさらに強化するものにしかならなかった。ムアンマル・カダフィは西洋の軍事介入からリビヤを守るために大量破壊兵器の計画を進めていたが、彼を転覆しリビヤにイスラム社会を作ろうとしていたイスラム主義者たち——アルカイダと関係を持つジハード主義者を含む——という内部の脅威にもさらされていた。9/11のあと、米国はアルカイダを壊滅させようと動きだしており、カダフィは自国内のイスラム主義の敵に更に有効な対処をするために、西洋と和解し、アルカイダに対する国際的な闘いの仲間になろうとした。しかしそうすることで、彼は大量破壊兵器を失うこととなった。この条件をカダフィが飲んだとき、彼は政策上の大失敗をおかしたことになる。経済国家主義者(訳者注:「経済ナショナリスト」と呼ばれるほうが一般的か)であるカダフィは、西洋の石油会社や投資家たちの利益よりもリビヤのための経済を優先したため、彼らをいら立たせることとなった。彼の国家主義的な妨害に嫌気がさした NATO は、カダフィの敵であるイスラム主義者たちとつながることで、彼を失脚させ、殺害した。もし彼が大量破壊兵器を放棄していなかったら、カダフィはいまも依然としてリビヤで指導者の地位にいたであろう。「カダフィやサダム・フセインが核を保有していたら、誰がかれらと関わりたいなどと思うか」と、イスラエル軍の計画部隊アミル・エシェル少将は語り、「ありえない」と述べた24

一方的な武装解除ののち、カダフィは西洋の諸首都で歓迎され、世界の指導者たちは彼と商取引を結ぼうとトリポリ(訳者注:リビヤの首都)に急いだ。カダフィのもとを訪れたなかに、韓国の外務大臣と、のちに国連事務総長となる潘基文(パン・ギムン)がいた。彼らはこの「更生した」リビヤの指導者に、北朝鮮人にも核兵器を放棄するよう説得してほしいと主張した25。カダフィがこれに同意したかは不明だが、もし同意したとしても、彼の説得は賢明に無視されたということだろう。北朝鮮の視点からは、カダフィはエサにおびき寄せられ裏切られただけのことだ。 DPRK がリビヤから学んだ教訓は、朝鮮半島の安全を保証する唯一のものは、核兵器に支えられた強い軍隊だ、というものだった26

これは決してバカげた見方でもないし、(他の国の)核縮小に対して大いなる信心を抱いている西洋が拒絶するような見方でもない。たとえば英国は、「核の脅迫や、我々にとって重要な利益に対する攻撃などを防ぐために、他に手だてがないようなものについて」言及することで、自らの核兵器計画を正当化している27。もし英国が核の脅迫や攻撃を防ぐために核兵器を必要としているのであれば、そのような脅迫めいた圧力を長いこと受けてきた北朝鮮人にとっても当然必要なはずだ。実際、英国人よりも北朝鮮人のほうが核兵器をより必要としていると言うこともできる。英国にとっては、核の脅迫も攻撃も、単なる仮説でしかないのだから。

2007年から2011年にかけて米国戦略軍のトップにいたケビン・P・チルトン大将は、2010年にワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ウォルター・ピンカスにこう告げた。「核兵器の65年の歴史のなかで、核を保有した国が征服されたことはなく、征服されそうになったことすらない」28。また一方で、大量破壊兵器を破棄せよという要求に応じた国は、その直後に、核兵器を大量に保有し、破棄する意志すらない国々によって、征服されてしまっている。ピンカスはチルトンの言葉を使い、北朝鮮が征服されることのないほどの核兵器の備えを保有しないように、先制攻撃をするべきであると主張した。核保有国が征服されたことがなく、征服されそうになったことすらないという事実を、「イランや北朝鮮が核の技術を発展させていくなかで、政府(訳者注:米国政府のこと)にいる者は、しっかり熟考しなければならない」とピンカスは書いている29

結論

核兵器は政治的な有用性を持っている。優れた核の備えがあり、弾頭を打ち飛ばす手段を持っている国にとっては、恐怖と威嚇を通して他の非核保有国から政治的譲歩を引き出すために核兵器を使うことができる。米国ほど活発に核兵器の政治的有用性を活用している国はない。外交上の目標を追求するなかで、ワシントンは、1970年から2010年のあいだに他国に対して25回も核攻撃の脅迫を行っており、そのうち1990年と2010年のあいだには14回行っている。このうち6回が、北朝鮮に対してのものだった30。これ以降も米国は北朝鮮に同様の脅迫を行っている。(この期間に米国が他の国に対して出した核の脅迫の記録は、イラクに7件、中国に4件、ソ連に4件、リビヤに2件、イラクに1件、シリアに1件である。これらのすべての国が、 DPRK と同様、脅迫を受けた段階では、共産主義の国であったか、あるいは経済国家主義の統治下にあったことは、象徴的である。)

核兵器は更に、核やその他の軍事的脅威におびやかされている国々にとっても政治的有用性を持っている。核兵器があることで、他の国々が軍隊を出して征服するときのリスクを上昇させ、軍事介入の可能性を小さくすることができる。イラクへの米国軍の介入や NATO によるリビヤへの介入についても、それぞれのターゲットが武装解除することで外部の軍隊が無事に介入できる環境をつくってくれていなかったら実行されなかったであろうということは、間違いないだろう。

北朝鮮が核兵器を備えることは、戦争の可能性を高めることはない——米国とその操り人形である韓国が平壌の共産主義政権を打ち負かす可能性を、下げているのだ。これは、帝国主義的軍事介入に反対する人間や、他国に支配されることなく内政を行う人民の権利を支持する人間、そして抑圧と搾取と他国による支配のシステムである世界的な資本主義制度に対する、実在する完全な代替物であるところのその1つが存続することに関心を持つ人間にとって、むしろこれ(訳者注:北朝鮮が核兵器を備えること)は、歓迎すべきことなのだ。


  1. Ralph Miliband, The State in Capitalist Society, Merlin Press, 2009, p. 62. 
  2. "Absent from the Korea Talks: Bush's Hard-Liner," The New York Times, September 2, 2003. 
  3. Charles J. Hanley and Randy Hershaft, "U.S. often weighed N. Korea nuke option", The Associated Press, October 11, 2010. 
  4. Hanley and Hershaft. 
  5. Hanley and Hershaft. 
  6. Hanley and Hershaft. 
  7. Hanley and Hershaft. 
  8. Bruce Cumings, Korea's Place in the Sun: A Modern History, W.W. Norton & Company, 2005. p. 488-489. 
  9. William E. Berry Jr., "North Korea's nuclear program: The Clinton administration's response," INSS Occasional Paper 3, March 1995. 
  10. Bruce Cumings, "Latest North Korean provocations stem from missed US opportunities for demilitarization," Democracy Now!, May 29, 2009. 
  11. Lou Dobbs Tonight, October 18, 2006. 
  12. Hanley and Hershaft. 
  13. Choe Sang-hun, "New leader in South criticizes North Korea," The New York Times, February 13, 2013. 
  14. "Foreign ministry issues memorandum on N-issue," Korean Central News Agency, April 21, 2010. 
  15. Korean Central News Agency, February 13, 2013. 
  16. U.S. News & World Report, June 26, 2008; The New York Times, July 6, 2008. 
  17. Neil MacFarquhar and Jane Perlez, "China looms over response to nuclear test by North Korea," The New York Times, February 12, 2013. 
  18. Dianne E. Rennack, "North Korea: Economic sanctions", Congressional Research Service, October 17, 2006. http://www.au.af.mil/au/awc/awcgate/crs/rl31696.pdf 
  19. Mark Landler, "Envoy to coordinate North Korea sanctions", The New York Times, June 27, 2009. 
  20. The New York Times, September 13, 2006. 
  21. According to Rennack, the following US sanctions have been imposed on North Korea for reasons listed as either "communism", "non-market economy" or "communism and market disruption": prohibition on foreign aid; prohibition on Export-Import Bank funding; limits on the exports or goods and services; denial of favorable trade terms. 
  22. The Washington Post, June 24, 2005. 
  23. "U.S. Tells Iran, Syria, N. Korea 'Learn from Iraq," Reuters, April 9, 2003. 
  24. Ethan Bronner, "Israel sense bluffing in Iran's threats of retaliation", The New York Times, January 26, 2012. 
  25. Chosun Ilbo, February 14, 2005. 
  26. Mark McDonald, "North Korea suggests Libya should have kept nuclear program", The New York Times, March 24, 2011.
    A February 21, 2013 comment by Pyongyang's official Korean Central News Agency ("Nuclear test part of DPRK's substantial countermeasures to defend its sovereignty") noted that,

    "The tragic consequences in those countries which abandoned halfway their nuclear programs, yielding to the high-handed practices and pressure of the U.S. in recent years, clearly prove that the DPRK was very far-sighted and just when it made the option. They also teach the truth that the U.S. nuclear blackmail should be countered with substantial countermeasures, not with compromise or retreat."

    An article in the February 22, 2013 issue of Rodong Sinmun, the official newspaper of the Central Committee of North Korea's ruling Workers Party ("Gone are the days of US nuclear blackmail") observed that "Had it not been the nuclear deterrence of our own, the U.S. would have already launched a war on the peninsula as it had done in Iraq and Libya and plunged it into a sorry plight as the Balkan at the end of last century and Afghanistan early in this century." 

  27. http://www.mod.uk/NR/rdonlyres/AC00DD79-76D6-4FE3-91A1-6A56B03C092F/0/DefenceWhitePaper2006_Cm6994.pdf 
  28. Quoted in Walter Pincus, "As missions are added, Stratcom commander keeps focus on deterrence," The Washington Post, March 30, 2010. 
  29. Pincus. 
  30. Samuel Black, "The changing political utility of nuclear weapons: Nuclear threats from 1970 to 2010," The Stimson Center, August 2010, http://www.stimson.org/images/uploads/research-pdfs/Nuclear_Final.pdf 

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1985年5月26日生まれ。栃木県足利市出身、ニュージーランドとアメリカを経て現在は群馬県館林市在住。2011年にシカゴ大学大学院社会科学修士課程を中退。以降ジェンダー・セクシュアリティを中心に執筆や講演など評論活動をしています。 LGBT運動と排外主義のかかわり、資本主義とLGBT、貧困二世・三世のLGBT/クィア、性的欲望に関する社会的言説の歴史、セックスワーカーの権利と尊厳などに特に関心があります。